【第6回】 関口裕子さん 直樹さん
JR富士見駅から歩いてすぐ、まるで都会の最先端の街にあるような店構えのセレクトショップ(洋服・雑貨店)、MMFはあります。この店を経営するのは2004年に横浜から夫婦で移住してきた関口裕子さんと直樹さん。洋服や雑貨だけでなく「この町から新しい文化を発信したい」と語るご夫妻に話を伺いました。
−−MMFってどんな店?
裕子 ひとことで言うなら「気軽なお店」だと思います。小さな町ですからお客様の顔もだいたい覚えてしまいますので、仕入れの時も「あの方に合いそうだな」と想像しながら購入することが多いんです。「このパンツに合わせるトップス がほしいの」というお客様が来て、お持ち頂いたパンツを合わせながら一緒に服を選んでいくような、そんなお店なんです。服を買う予定がなくてもふらりと立ち寄ってくれるようなお店でありたいと思っています。
お客様は、観光でいらっしゃる方はほとんどいません。この地域に住んでいらっしゃる方、なかでも移住者の方が多いです。この町は移住者がとても多いですし、年齢層も他の町に比べて若者からご年配の方まで、かなり幅広い印象があります。
−−富士見に移住したきっかけは?
直樹 きっかけは些細なことだったんですよ。横浜で生活していた頃、借りていたマンションの更新が迫っていて、大家さんから「売りに出したいと思っているので、購入してもらえませんか?」という話があったんです。購入するつもりはなかったので引っ越すことにしたんですが、たまたま妻の父が購入した土地がこの町にあることを知って、せっかく土地があるなら、ここに家を立てて住んでみるのもいいかなと思って。
すぐに家を建てるかどうかは別としても、まず近くに住んで様子をみようと思って引っ越してきたんです。最初はアパート暮らしで、店を開く予定もありませんでした。
それまで都会でしか暮らしたことがなかったので、本当に田舎で生活ができるのか、全く未知数でした。「絶対にこの町で生活し続けないと」といった強い気持ちも特になかったんです。「ダメならまた都会に戻ればいいや」というくらいでした。
ただ、住んでみてすぐにこの町が気に入りました。空気がきれいで水も食べ物もおいしく、季節の移り変わりを感じながら生活ができる。ずっとここに住みたいと思いました。
裕子 もともと私の父は山が大好きで、子どもの頃からこの地域にはよく来ていました。ですから、とにかく移住前から楽しみでわくわくしていました。地元の方からは「山なんてそんなに見ないよ」と言われますが、私は山を眺めるのが今でも大好きで、いつまでも飽きませんね。
−−セレクトショップを開こうと思ったのは?
直樹 移住直後は、仕事口を探して、色々な仕事をしていました。僕は絵描きとしての活動も行っていて、妻はアパレルで勤務していた経験があるなかで、「いつか2人で何かをはじめたい」という思いはあったんです。この町の生活にも慣れてきて知り合いも増えていくうちに、洋服屋さんならできるんじゃないか、という思いに至って、2016年から店舗経営を始めることになりました。
裕子 最初の頃は「こんな田舎の商店街で洋服屋さんをやっても続くわけがない」って言われることも多かったです。私たちも最初の1、2年はお客様が定着するまでは大変だろうと覚悟していました。でも、開店前から友達たちが積極的に紹介して宣伝してくれて、思いのほか順調に運営できています。
−−何事もていねいに
裕子 お客様は常連の方や、紹介で来店される方など、お知り合いどうしの方が多いですから、なるべくお客様の洋服が被ってしまわないように工夫しています。ですからデザインものの仕入れはなるべく一点だけにしています。
直樹 お店の経営は、何事も「ていねいに」やることにつきると思います。ちゃんとお客様一人ひとりとコミュニケーションをとって、コツコツとやること。それが、この店を今まで続けてこれた大きな要因のひとつかなと思います。
それは、都会から田舎に来た時に私たちが感じたことでもあって、たとえば都会では時間を惜しんで出来合いのものを買うような生活をしていたのが、移住してからは自分でちゃんと作るようになったとか、そういったことです。その後に建てた我が家もセルフビルドにしたくらいです(笑
−−富士見から新しい文化を発信したい
裕子 この町は生活するには本当にいい所ですし、意外に商売もしやすいのではないかと思っています。都会で店を開こうと思っても、同じような店を既に始めている方も数多く、大きな資金も必要ですよね。一方でこの町では、都会にあってもここにはないお店はまだたくさんありますから。私たちはこのお店をできるだけ長く続けて、人が集う場所にしてきたいですね。
直樹 富士見の商店街には、僕たち以外にも頑張っているお店はたくさんあります。でも、まだまだシャッターが閉まったままのお店も多い。そういった現状のなかで、若い人たちでこの町を盛り上げていって、地域にもっと貢献したいと考えています。
絵を描いていたこともあって、様々なアーティストの知り合いがいますので、彼らを呼んで個展を開いて、地元の若者と交流してもらうとか、そういった活動をとおして、富士見町から新しい文化を作って、それを発信していきたいと思います。